奨学金の利用者が増加する一方で、返済が困難となるケースも増えています。
理由はさまざまですが、奨学金とはいえ、長期にわたり滞納してしまうと訴訟を起こされる可能性もあります。
そのため、奨学金の返済が苦しくなった場合には早期に対処することが必要です。
そこで今回は、個人再生により奨学金を債務整理する場合におけるメリット・デメリットを中心に解説します。
また、連帯保証人にどのような影響が及ぶのか?についても説明していますので、奨学金の個人再生を検討されている方は是非参考にしてください。
目次
奨学金の返済を延滞したらどうなる?
奨学金の返済を延滞すると、本人は大別して2つの不利益を受けることになります。
本人にとっては、その後の生活や仕事に大きく影響を及ぼすことになるため、必ず押さえておくことが必要です。
本題に入る前に、簡単に確認しておきましょう。
本人が受ける可能性のある不利益は?
奨学金といっても、借金であることに変わりはありません。
奨学金の返済を延滞するということは、すなわち借金の返済を延滞することを意味します。
奨学金の返済を延滞すると、本人は以下のような不利益を受けることになります。
ブラックリストに載る
1点目は、返済を延滞した旨がブラックリストに載るということです。
ブラックリストに載ると経済的な信用を失うため、新たに借り入れをしたり、クレジットカードを作ったりすることが難しくなります。
たとえば日本学生支援機構では、ブラックリストに一度登録されてしまうと、たとえその後に延滞を解消したとしても、奨学金の返還完了後5年間は記録が残ることになってしまいます。
参考:日本学生支援機構ウェブサイト | 個人信用情報機関への個人情報・個人信用情報の登録
法的措置を執られる
2点目は、法的措置を執られる可能性があるということです。
奨学金の返済について、滞納が一定期間に及ぶと訴訟(支払督促)を起こされたり、強制執行を申し立てられたりする可能性が高くなります。
強制執行を申し立てられると、給料や預貯金、不動産といった財産を差し押さえられ、本人にとって多大な不利益を受けることになります。
2つの対処法
奨学金の返済が苦しくなった場合、可能なかぎり早期に対処することが必要です。
対処法としては、たとえば以下の方法が考えられます。
救済制度の利用
奨学金の貸付機関は、一般的に救済制度を設けていることが多いです。
たとえば、奨学金の返済を一定期間先送りにする「返還期限猶予」や、1回あたりの返済額を減額する「減額返還」などが挙げられます。
これらの制度を利用するためには、災害や病気、経済困難や失業といったように一定の条件を満たすことが必要です。早期に利用することにより、奨学金の滞納を防ぐことができます。
なお、日本学生支援機構における救済制度の場合、決められた用紙に必要事項を記入のうえ、救済制度を利用する旨の申請を行わなければなりません。
申請に基づき審査が実施され、条件を満たしていれば、救済制度を利用できるという流れになっています。
任意整理をする
奨学金以外にも借金を抱えている場合には、選択肢の一つとして任意整理を検討することも必要です。
任意整理では、借金の大幅な減額は期待できませんが、将来利息をカットしてもらえたり、長期分割での返済方法を認めてもらえたりする可能性があります。他の借金を任意整理することにより、お金に多少の余裕が生まれれば、その分を奨学金の返済に充てることも可能です。
もっとも自身の収支状況と照らし合わせて、奨学金以外の借金額があまりに大きいと、任意整理による解決が難しくなる場合もあります。その場合は、自己破産を検討することも必要になるでしょう。
奨学金を個人再生で債務整理するメリット・デメリット
奨学金を個人再生で債務整理する場合には、あらかじめメリット・デメリットを知っておく必要があります。
メリットとデメリットを知ったうえで、個人再生を選択すべきかどうかを検討することが大切です。
メリット
奨学金の残額を大幅に減額できる
個人再生は裁判所を通して、借金を大幅に減額してもらうための手続きです。
具体的には、大幅に減額された借金について、どのように返済していくかを「再生計画案」にまとめて裁判所に提出します。
借金総額にもよりますが、およそ5分の1にまで借金を減額することが可能です。再生計画案について裁判所から認可が下りれば、再生計画案に従って返済を開始することになります。
このように、個人再生では奨学金の残額を大幅に減額することが可能です。
財産を処分せずに済む
個人再生手続きは一部例外を除き、自己の財産を手元に残しながら借金を整理することができます。
たとえば、持ち家がある人は住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用することにより、持ち家を処分することなく借金を整理できます。
とはいえ、すべての財産を手元に残せるわけではありません。
たとえば、ローンの支払いが終わっていない車を保有している場合には、原則としてローン会社に車を引き上げられてしまうため、手元に残すことはできません。
デメリット
手続きの利用条件がある
個人再生は裁判所を通す分、手続き自体が複雑であり、その利用条件も厳しくなっています。
具体的には、借金の総額が5000万円以下(住宅ローンを除く)であることが条件です。
また、あくまで返済していくことが前提となるため、安定した収入を継続的に得られる見込みのあることが必要となります。
返済していくことが前提となる
個人再生は、借金を減額してもらうための手続きです。
そのため、自己破産のように借金の支払義務が免除されるわけではありません。
先にお伝えしたように、再生計画案に従って大幅に減額された借金を原則3年間で分割して返済していくことになります。
ブラックリストや官報に掲載される
個人再生をすると、ブラックリストと官報にその旨が掲載されます。
個人再生の場合、ブラックリストに記録が残る期間は、およそ5年間(銀行系は10年間)です。
この期間は新たに借り入れをしたり、クレジットカードを作ったりすることが難しくなります。
また、官報にもその旨が掲載されることとされています。ここでいう「官報」とは、国が定期的に発行する機関紙のことをいいます。
そこで、官報から個人再生をしたことがバレる心配が出てきますが、日常的に官報を確認しているのは、金融機関の従事者等ごく一部の者に限られているため、バレる可能性は低いといっていいでしょう。
保証人に迷惑がかかる
個人再生は任意整理のように、整理する対象を自由に選ぶことはできません。そのため、自己が負担するすべての借金が手続きの対象となります。
奨学金の場合、保証人がついていることがほとんどですが、個人再生では奨学金も手続きの対象となります。その結果、保証人に迷惑をかけることになってしまいます。
債権者からすれば、主債務者が個人再生の手続きを開始してしまうと、本来受けられるはずであった返済を受けられなくなります。
そこで、保証人に返済を求めることになります。
奨学金の個人再生では連帯保証人にどのような影響があるのか?
奨学金を借り入れる際には、連帯保証人を求められることが一般的ですが、主債務者が個人再生をした場合、連帯保証人にはどのような影響が及ぶのでしょうか。
この点は、連帯保証人が「人」であるか「機関」であるかによって異なります。
人的保証の場合は保証人に一括請求される
奨学金を借り入れる際の契約には、「期限の利益喪失条項」が盛り込まれていることがほとんどです。
ここでいう「期限の利益喪失条項」とは、一定の条件を満たした場合に、債権者は残額を一括で支払うように請求できる旨を定めた条項のことをいいます。
奨学金をはじめ多くの契約では、「個人再生や自己破産のような法的手続きを採った場合」は、期限の利益を喪失する条件として定められています。
そのため、主債務者が個人再生を開始した場合には、一般的に期限の利益を喪失することになります。
参考:民法137条
保証人は奨学金の残額を一括で支払う必要がある
主債務者が個人再生をすると、期限の利益を喪失するため、債権者から請求を受けた保証人は奨学金の残額を一括で支払う必要があります。
とはいえ、残額が高額になると、保証人であっても一括で返済することが困難な場合が多いです。
この場合、保証人は分割返済について債権者と交渉をするほかありませんが、債権者によっては分割返済を認めてくれるケースもあります。
保証人が債務整理を余儀なくされるケースもある
分割返済を認めてくれるケースもありますが、必ずしも債権者が分割返済に応じてくれるとは限りません。
債権者が分割返済に応じてくれなければ、保証人は一括で返済するほかなくなりますが、それが困難である場合には、保証人も債務整理を検討せざるを得なくなります。
機関保証の場合は本人に代わって機関が代位弁済する
機関保証の場合、主債務者が個人再生をすると、債権者は本人に代わって奨学金の残額を一括で支払うよう保証会社に対して請求します。
これを受けて保証会社は奨学金の残額を代位弁済します。
ここでいう「代位弁済」とは、主債務者が返済できなくなった場合に、保証会社が返済を肩代わりすることです。
保証会社が代位弁済をすると、債権者と主債務者の債権債務関係は消滅しますが、保証会社が支払った債務がそのまま保証会社の債権として残ることになります。
つまり、主債務者にとって債権者が保証会社に代わります。この場合、保証会社が取得した債権を個人再生で整理するということになります。
このように、機関保証の場合は主債務者にとっての債権者が変わるだけであり、主債務者への影響はさほど変わりません。
個人再生以外で奨学金を整理する方法
債務整理の方法は、個人再生のほかにも「任意整理」や「自己破産」があります。
これらの手続きにより奨学金を整理することも可能です。
任意整理
任意整理は言葉のとおり、任意で借金を整理する手続きです。
具体的には、債権者と任意で交渉を行い、支払条件について合意が成立すれば合意した内容で返済を開始することになります。
個人再生や自己破産のように裁判所を通す必要はありません。
法改正により現在でこそ少なくなりましたが、取引時期によっては過払い金が発生している可能性があります。
この場合、借金を大幅に減額できる可能性があり、また借金を完済したうえで過払い金が発生している場合には、債権者から過払い金を取り戻すことも可能です。
整理する対象を自由に選ぶことができる
先に見たように、任意整理は整理する対象を自由に選ぶことができます。
奨学金を抱えている場合において、任意整理をする場合には、整理の対象から奨学金を外すことが多いです。
奨学金は貸付利率が低いため、任意整理をしても最終的に支払う金額はほとんど変わりません。
このように、奨学金を任意整理してもあまり意味がありません。
この場合、奨学金以外の借金を任意整理し、返済額や返済方法を少しでも楽にして、奨学金については従前通り支払いを続けていくということになります。
自己破産
自己破産は任意整理とは異なり、裁判所を通さなければならない手続きです。
そのため、任意整理のときのように整理する対象を自由に選ぶことはできず、すべての債権者が手続きの対象となります。
奨学金の支払義務が免除される
自己破産は裁判所を通して、借金等の支払義務を免除してもらうための手続きです。
そのため、自己破産をすれば奨学金についてもその残額を支払う必要がなくなります。
自己破産に伴うデメリットがある
自己破産をすると、債務者は借金から解放されるという大きなメリットを受けることができますが、その反面一定のデメリットが伴います。
自己破産をする場合、すべての債権者が手続きの対象となるため、奨学金も手続きの対象となります。
ですが、奨学金の多くは保証人がついているため、主債務者が自己破産をすると、債権者は保証人に対して残額を一括で支払うよう請求することになります。
そのため、親や親族が保証人になっている場合には、少なくとも自己破産の手続きに入る前に事情をきちんと説明しておく必要があります。
事前の説明なしに突然債権者から請求をされると、保証人は混乱してしまい、関係性が悪化するおそれもあるため注意するようにしましょう。
まとめ
奨学金を借り入れる際には、保証人を求められることがほとんどです。そのため、個人再生により奨学金を債務整理する場合には、保証人に配慮しなければなりません。
少なくとも手続きに入る前に、保証人に事情を伝えておくことが必要です。場合によっては、保証人も債務整理を検討せざるを得なくなるため、その点も十分に確認しておく必要があるでしょう。
奨学金の返済が苦しい場合には、救済制度を含め、自身に適した方法を選択することが大切です。また、自身に適した方法がわからない場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。